心の成長に年齢は関係ありません。乳幼児の時期を過ぎても、学童期、思春期、青年期、中年期、老年期とライフサイクルのなかで起こるさまざまなできごとを乗り越えて心は成長していきます。精神分析家のエリクソンは、一生を8段階に分けて心の発達を考えました。本稿では乳幼児以降に訪れる大きな過渡期にスポットを当てて、心の発達段階を見ていきましょう。精神科医・庄司剛医師が解説します。
思春期(12~18歳ごろ)
■親子ともに「試練の時期」だが、独立した大人になるために必要なプロセス
子どもから大人へと体が変化していく時期が思春期です。この時期は、第二次性徴による変化を受け入れることが課題の一つとなります。
多くの場合で異性に対する愛着と、同性に対するライバル意識が出てきます。これがいわゆるエディプス・コンプレックスの再燃です。エディプス・コンプレックスというのは、幼児時には例えば男子の場合、大好きな母親に愛着を抱いて父親に対抗意識をもったり怖いと思ったりしますが、だんだんと母親は父親のパートナーであることを理解し、母親への欲求を抑制するようになります(潜伏期)。
それが思春期になると、第二次性徴をきっかけとして性的欲求(リビドー)が高まり、再び異性への愛着と同性に対するライバル心が表れてきます。体も成長して生殖できる肉体をもち、体力もついてきて幼いころよりも父親との体格差が小さくなるにつれ、父親はもはや絶対的に怖い存在ではなくなり無意識的な攻撃的衝動が起こってきます。
こういった衝動を社会的に受け入れられない目標から別のより高度で社会に認められる目標に向きを変え、その実現に昇華することができれば、思春期の危機を乗り越えやすいかもしれません。例えばそれは攻撃的なスポーツに身を投じることによって表れることもあります。しかし、父親や父親像の投影である権威などに反抗し、親や学校、社会に対して攻撃的、破壊的になることも少なくありません。
その一方で、攻撃性や反抗心に罪悪感も抱き、葛藤が生まれます。思春期の若者にとって、そして親にとってもこの時期は試練の時です。しかしこれは親から自立し、独立した大人になっていくために必要なプロセスでもあるのです。
また、両親の不和など家庭内のさまざまな問題に気づいて傷つきやすい時期でもあり、大人への反抗心や不信感によって心が不安定になりやすいことも特徴の一つです。
青年期(18~40歳ごろ)
■一般にアイデンティティが確立される時期だが…
アイデンティティが確立される時期で、周囲との関わりによって成長し親密性をもつなどの課題を乗り越えていきます。また、環境も変化しやすい時期であるため、葛藤が生じやすくなります。
アイデンティティとは自我同一性と訳されますが、自分は何者なのかと認識することをいいます。
アイデンティティの確立によって自分の価値を見出すことができるようになると同時に、独立心が芽生えて仕事を見つけるなどの社会生活を送れるようになります。ただ、自分のイメージは、生活環境などの影響を受けながら変化するので、青年期で確立されるアイデンティティは基礎となるものといえます。
自分を意識することは、裏を返せば他者を意識することでもあります。そのため、学校の仲間との付き合い、進学、就職、異性との親密な関係などによって、精神的に影響を受けやすい時期です。また、この時期は社会的な環境変化の影響も受けます。人によっては結婚や出産などで自己判断や自己決定力が求められますが、アイデンティティが確立しないままこういった場面に直面すると、自分が何者なのか分かっていないわけですから、その場に応じた決断ができず、混乱することもあります。
中年期(40~65歳ごろ)
■衰退・喪失・下降といった変化をどう乗り越えるか?
これまでの経験が実る円熟の時期である一方、衰退・喪失・下降といった変化が生じる時期であり、これを乗り越えることが課題となります。
身体的に衰えを自覚し、他人事と思っていた死を身近に感じ、自分の人生に焦りや不安を抱くことがあります。家庭においても、思春期または青年期の子どもの子育てによって、あるいは子どもの自立によって空虚感を抱く人もいます。
これを「ミッドライフ・クライシス」(中年の危機)と呼びます。「これまで、がむしゃらにやってきたけれど、自分はなんのために生きてきたんだ」と、立ち止まって考えるようになり、「結局はなにも達成していない」などと、理想化された目標設定に対して現実を突きつけられるわけです。
例えば、仕事に熱中するあまり気づいたら結婚するのを忘れていたとか、結婚しても家族を顧みなかったことで家庭内に自分の居場所がないとか、立ち止まって気づいてしまうのです。
このように中年期も危機をはらんだ転換期の一つであるといえます。
老年期(65歳以上)
■それまでの人生を肯定できるか、絶望するかが分かれ目
老いの時期であり、死が近づきつつあることを実感します。そのとき、今までの自分の人生を振り返って自分を肯定し「良い人生だった」と思えるか、絶望するかが大きな問題となります。
中年期までと同様、老年期もまたアイデンティティの揺らぎが生じます。なぜなら、老化現象によるさまざまな機能の低下によって自分に対して自信を失いやすいためです。さらに自主性や積極性の低下によって罪悪感や劣等感なども抱きやすくなるほか、今まで親密な関係にあったパートナーや友人などの喪失も経験します。そしてなにより、今まで世話していた立場から、反対に世話をされる立場に変わることも、アイデンティティを揺るがす大きな要因になってきます。
このように、老年期に入ると、いろいろな意味での喪失体験からネガティブな考えに転じやすくなる人もいます。しかし、喪失体験を受け入れつつ、中年期までに培ってきた自分に対する愛と肯定感をもって自分をとらえ直すことができれば、内面に広がりと深さが増し円熟してきます。
こうして人生を肯定的に受け入れられるように統合し、自分自身を改めて知ることで知恵や英知を獲得していきます。
心の成長に年齢は関係ない
このように発達段階を説いたエリク・エリクソンは、1950年代からおおよそ1970年代ごろまでに活躍した重要な分析家です。今でもとても役に立つアイデンティティや基本的信頼感といった重要な概念を提唱した人であることは確かですが、一方でライフサイクルなどに関する考え方は文化や思想の影響を強く受ける部分があります。
例えば江戸時代やそれ以前の思春期、青年期ではまったくその様相や人生上の課題が今の時代と違っていたり、ジェンダー・アイデンティティに関することなど、数十年前の説明が現代に合わなくなるというようなことがいろいろ出ていることも事実です。
いずれにせよ、それぞれの時期に起こるさまざまなできごとを乗り越えることで心は成長していくため、心の成長に年齢は関係ありません。いかに問題から逃げずに向き合い、受け入れていけるかが重要です。
庄司 剛
北参道こころの診療所 院長
連載知らない自分に出会う精神分析の世界
※本連載は、庄司剛氏の著書『知らない自分に出会う精神分析の世界』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。
からの記事と詳細 ( 65歳を過ぎて「深みが出る人、出ない人」の決定的差【精神科医が解説】 | 富裕層向け資産防衛メディア - 幻冬舎ゴールドオンライン )
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