KDDIは、6月2日にフードデリバリーサービスを手掛けるmenuと、資本業務提携を結んだと発表した。同日から、auスマートパスプレミアム契約者に対するキャンペーンも実施。au PAYアプリ内には、menuへのリンクが張られており、送客も行っている。今後は、au PAYアプリ内だけで完結するミニアプリの導入や、menu側のau PAY対応などを順次実施していく予定だ。
コロナ禍に伴う緊急事態宣言などで飲食店の営業に大きな制限がかかる中、フードデリバリーは急激に市場を拡大している。利便性の高さから、コロナ終息後もユーザーの生活に取り入れられ、定着する可能性は高い。こうした状況を見すえ、大手キャリアもフードデリバリーサービスに触手を伸ばし、競争が激化している。ここでは、KDDIの戦略とともに、キャリア軸で見たときのフードデリバリーサービスの現状を比較、分析した。
au経済圏拡大を目指し、menuと資本業務提携を結んだKDDI
KDDIは、フードデリバリーを手掛けるベンチャー企業のmenuと、資本業務提携を結んだ。KDDIの出資金額は50億円。出資比率は20%になり、menuはKDDIの持分法適用会社になった。KDDIがフードデリバリーに出資する狙いは、au PAYを中心とした“au経済圏”を拡大するところにある。決済サービスの入り口となるサービスを増やすことで、流通額を上げていくのが資本業務提携の目的だ。
au PAYの加入者、3200万人。KDDIが導入したPontaポイントは1億超の会員を抱えているが、「まだまだ選択的にau経済圏にご参加いただいている状況ではない」(KDDI パーソナル事業本部 サービス統括本部 副統括本部長 執行役員の多田一国氏)。利用促進のため、大規模なポイント還元キャンペーンをたびたび実施しているのも、その状況の裏返しと見ていいだろう。
多田氏が「消費者の意思決定プロセスとして、どの決済から何をしようか考える人はいない」と語るように、ポイント還元キャンペーンは一時的な強化策で、サービスの本質ではない。au経済圏を活発化するには、「お客さま側の最初の接点になるところに回って、便利だったりお得だったりの価値を提供し、満足度の高い意思決定を支援する」(同)必要があるというわけだ。
こうした状況の中、KDDIが目を付けたサービスの1つが、コロナ禍で急拡大しているフードデリバリーサービスだった。menuは、2020年4月にサービスを開始したベンチャー企業だが、約1年で急成長を遂げ、現在ではUber Eatsや出前館に次ぐ業界3位の位置につけている。同社の代表取締役社長、渡邉真氏によると、約1年で亀井店舗数や登録配達員数、アプリダウンロード数は急増。6月現在で加盟店数は約6万に達し、「配達員数も業界上位であるという認識」(同)。2021年にプロモーションを強化した結果、「購入回数も急増している」(同)という。
急成長している市場ゆえに、海外からの新規参入組も多く、激戦区になっているフードデリバリーサービスだが、KDDIがmenuを選んだのは、後述するような「深い取り組みができる」(多田氏)ことが大きかったという。もともとKDDIは、auスマートパスプレミアムの契約者向けに、Uber Eatsのクーポンを提供していたが、「本国(米・Uber)があり、日本固有の事情にまではご対応いただけない」。日本発のベンチャーで深い提携ができ、かつ規模が大きく急成長していることが提携の決め手になった。
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まずはキャンペーンから、IDやユーザーデータの連携も視野に
では、資本業務提携により、どのようなサービスが実現するのか。短期的に見ると、au向けの割引がユーザーにとってのメリットといえそうだ。資本業務提携が発表された6月2日には、auスマートパスプレミアム会員向けのキャンペーンを開始。auスマートパスプレミアムに新規登録した際に、合計4000円分のクーポンを発行する(既存の会員は3000円分)。会員数の規模の大きなau PAYからmenuへの送客を行う取り組みも実施済み。au PAYアプリの「おすすめサービス」の1つに、KDDIグループ内のサービスと並んでmenuが加わっている。
現状、menuでの支払いにはクレジットカードの登録が必要だが、7月にはau PAYのネット決済が加わり、au PAY残高の利用が可能になるという。現状でもau WALLETプリペイドカードを登録すれば、au PAYの残高で決済することは可能だが、ネット決済が加われば、使い勝手はさらに高まる。マスターカードのプラットフォームを介さないau PAYのネット決済は、KDDIにとって、手数料を節約する効果もありそうだ。
さらに、au PAY内にmenuのミニアプリを搭載することも検討しているという。現状はあくまでmenuのアプリへのリンクが張られているにすぎないが、ミニアプリが加われば、au PAYアプリからダイレクトに食べ物の注文が可能になる。これらがユーザーやKDDI、menuにとっての短期的な資本業務提携の効果といえる。一方で、この取り組みはより長期的なID連携やデータの相互活用まで視野に入れたものだ。
将来的には、au IDとmenu、双方のIDを連携させ、ユーザーの購買履歴などを元にしたマーケティングを強化していくという。多田氏によると、「通常のデリバリーは店舗内飲食とは異なり、店舗側からはデリバリー事業者の先に、どのようなお客さまがいるのかが分からない」ことが課題になっているという。そのため、デリバリーを利用したユーザーが店舗を利用した際に、データに基づいてお勧めのメニューを提案するといったことができない。逆も同様で、店舗内ではデータが取れていても、その情報をデリバリーに生かすのが難しい。
多田氏によると、店舗内の決済に利用できるau PAYのau IDと、デリバリーを行うmenuのIDを連携させてデータを統合すれば、こうした課題が解決される可能性があるという。また、au PAYやPontaを組み合わせれば、より幅広い業種とコラボレーションできる。例えば、デリバリーで人気のメニューを元にコンビニエンスストアが商品を開発したり、デリバリーでニーズの高い商品をそろえるのに活用できたりと、マーケティングの幅が広がる。menuとの資本業務提携は、こうしたゴールを見すえたものだという。
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キャリアが熱視線を注ぐフードデリバリーサービスの現状
決済サービスを軸にした経済圏を拡大しようとしているキャリアにとって、その入り口の1つであるフードデリバリーサービスの重要性は高い。資本業務提携でmenuを自陣営に呼び込んだ格好のKDDIだが、この分野で先行しているのは、やはりソフトバンクだろう。ソフトバンクは、傘下のLINEが出前館を実質的な子会社に持つ他、先に挙げたUber Eatsを展開する米Uber Technologiesにも、ソフトバンクグループが出資し大株主になっている。タクシー配車アプリのDiDiも、関西圏や福岡などで、DiDi Foodというデリバリーサービスを展開する。
ソフトバンク傘下のPayPayは、Uber Eatsのミニアプリを搭載する他、出前館でもPayPayのネット決済を利用可能。出前館は、LINEとのIDやポイントでの連携も導入済み。KDDIがmenuとの資本業務提携で実現しようとしているサービスの一部は、既に実現済みだ。グループ内でフードデリバリーサービスが複数あり、競合しすぎている状況をどう整理するのかがソフトバンクにとっての課題といえそうだが、キャリアごとのサービスとして見たとき、一歩リードしているのも事実だ。
一方で、フードデリバリーサービスを手掛けていないのが、ドコモだ。同社は出前館のプラットフォームを利用する形でdデリバリーを展開していたが、5月に注文の受付を終了。サービスそのものも、6月いっぱいで幕を閉じる。dデリバリーを閉鎖した代わりに、出前館でdポイントを増量するキャンペーンなどを展開しているが、menuと資本業務提携したKDDIや、グループ内に複数のフードデリバリーサービスを抱えるソフトバンクに比べ、出遅れている印象も受ける。
d払いのような決済機能を提供するだけなら、特定の事業者と提携する必要はないが、ID連携やデータ連携などをしていくうえでは、自社サービスや資本関係のある提携先の重要性が増す。ドコモは、NTTによる完全子会社化以降、サービスの見直しを進めている。dデリバリーも“リストラ対象”の1つになった格好だが、コロナ化でフードデリバリー市場が伸びる中、競合他社に後れを取っているようにも見える。dデリバリーに代わる、次の一手に期待したいところだ。
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