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Thursday, March 9, 2023

その水は清らかか 原発処理水 漁に出る民俗学者のまなざし - 毎日新聞

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漁場から戻り、取れた魚をバケツに移す川島秀一さん=福島県新地町の釣師浜漁港で2023年2月22日午前5時41分、玉城達郎撮影
漁場から戻り、取れた魚をバケツに移す川島秀一さん=福島県新地町の釣師浜漁港で2023年2月22日午前5時41分、玉城達郎撮影

 還暦を過ぎてから海沿いの町に移り住み、地元の漁師に弟子入りした男性がいる。民俗学者の川島秀一さん(70)。海と人との関わりを見つめ直したいと考えたのがきっかけだ。漁師の生活や文化を知れば知るほど、海の尊さとその存在の大きさを思わざるを得ない。海は清らかであり続けてほしいとの思いを強くしている。

 2月22日午前5時半、日の出前の福島県新地町の釣師浜(つるしはま)漁港。暗がりで待つ家族たちに迎えられ、漁船が帰港した。午前2時に出漁し、沖合約5キロの漁場から戻ったという。漁師たちは黙々と取れたカレイやカニをバケツに移して網を回収した。漁船の甲板を掃除していた川島さんは「もたもたしていると、今もよく怒られるんだ」と笑った。

 新地町に移住したのは65歳だった2018年4月。東北大災害科学国際研究所の教授を定年退職したタイミングで仙台市から移った。1人暮らしの自宅は漁港のすぐそばにある。週に2回は旧知の漁師、小野春雄さん(71)の船に乗る日々を送る。漁師町に住んで自身も漁に出ることで、人々の暮らしを目に焼き付ける。この間、22年9月まで2年間にわたり、日本民俗学会の会長を務めた。

 宮城県気仙沼市生まれ。東京の大学で民俗学に打ち込んだ。民俗学は古くから伝わる風俗や習慣、伝承を通じて生活や文化の歴史を読み解く学問。古里の気仙沼市役所に就職すると、仕事の傍ら、在野の学者として、合間を見てはカツオ漁や追い込み漁の実態を調べに全国の漁港に出かけた。

 各地に残る、海の神を気遣うような風習や古老の話はどれも興味深いものばかりだった。印象に残ったのは、大漁のときに歌い継がれてきた歌を聞かせてくれた明治生まれの宮城県の漁師。漁港や市場では、使い古しのソファや椅子が、海の方を向くようにして置いてあることに気付いた。「1人でぼーっと座ったり、数人が集まって夕涼みしたり。ただ海を見ていたいんだろうね」

 12年前、古里の海に母の命を奪われた。11年3月11日の東日本大震災。川島さんは当時、出向先のリアス・アーク美術館(気仙沼市)で大きな揺れに見舞われた。高台にある美術館にいて自身は無事だったが、自宅のある海辺は火に包まれ、翌朝たどり着くと家は無くなっていた。2人暮らしだった母京子さん(当時85歳)は行方不明になり、翌12年3月に遺骨が見つかった。津波で母と自宅、古里の町並みを一度に喪失し途方に暮れた。

 かつて足しげく訪れ、多くのことを教えてくれた三陸の漁村の建物も根こそぎ消えていた。市教育委員会の調査として津波の被害を記録するため、カメラ片手にがれきの中を歩いた。「これからは沖縄の明るい海を見てさえも母を思い出さずにはいられないだろう」と思った。

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