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海洋探索アドベンチャー×寿司屋経営シミュレーション。そんなふたつの要素を軸にしつつ、さらにギッチギチにあらゆる楽しさを詰め込んだ、欲張りなゲームがある。それが2023年6月にPC版が正式リリースされた『デイヴ・ザ・ダイバー 』である。
舞台は世界各国の魚が集まるふしぎな海、巨大ブルーホール。この海へとダイブして、秘められた謎を解き明かす。そして捕まえた珍しい魚を寿司にして、お客に振る舞い口コミとSNSで有名店も目指す。ゲームの目的はそんな感じである。
言葉にすると無茶苦茶なゲームだが、実際にそうなのだから仕方がない。さらに、大量のサイドコンテンツやミニゲームが目白押し。料理にオタ芸、海中の美化に依頼の解決、カードの収集や化け物との死闘まで、ありとあらゆる要素が楽しめるのである。
主人公は太っちょのおじさん、デイヴ。寿司が食い放題という情報に釣られて、昔の知り合いであるサングラスの男、コブラの寿司屋経営に協力することに(画像はSteam版のもの)。
そんな本作は、10月26日にNintendo Switch版が発売予定だ。発売を直前に控えたいま、筆者はPC版から遊んでいたユーザーとして、ディレクターのファン・ジェホ氏にはさまざまな聞きたいことがある。なぜドット絵の表現にしたのか。なぜ寿司なのか。なぜこの作品にはおじさんばっかり出てくるのか――。
だから行った、ネクソン本社へ。そして聞いてきた、『デイヴ・ザ・ダイバー』について知りたいすべてを。
ファン・ジェホ 氏
『デイヴ・ザ・ダイバー』ディレクター。過去にモバイルゲームである『エビルファクトリー』、『ゴジラディフェンスフォース』などを開発。『BnB』、『カウンターストライク オンライン』、『マビノギ英雄伝』などのオンラインゲームにも携わっている。シングルプレイゲームの開発は、本作が初となる。(文中は)
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準備をしますので少々お待ちください。
スッ……。
コトン。
へい、お待ち。
ファン ……これは?
――寿司風に録音用のICレコーダーを置きました。
ファン そうですか。わかりました。
納得してもらえたところで、インタビュー本編をどうぞ。
まずはコミュニティの声を聞く。ヒットの裏には、ファン氏の根気強い地盤固めがあった
――まず、ファンさんが本作の開発で担当されたことをお聞かせいただいてもよろしいですか?
ファン 僕は本作のディレクターを務めています。最初のアイデア出しから、開発すべてを総括していますね。ゲームデザイナーさんもいろいろがんばってくださっていますが、方向性とかだいたいのアイデアは自分から出していると思います。
――本作は何人ぐらいの体制で作られているんでしょうか。
ファン 草案を出したときは5人ぐらいのチームだったんですけど、いまは25人くらいですね。作っていくうちに増えていった感じです。
5人というのがいちばん楽なチームの規模なんですけど、やはりSteamの要求クオリティは高くて……。さすがに5人だと無理があったので、人数を増やす必要がありました。
――あのボリュームを25人で、となるとけっこう少ない人数に思えるのですが……。開発には草案の段階からどれぐらいかかりましたか?
ファン 草案というか、もともとはモバイルで作っていたんですよ。“G-STAR”(韓国最大級のゲームショウ)にも出したりしていて。でも一度、プロジェクト自体が中止になったんですよね。
改めてPC版として作ることになったのは、新しく赴任したネクソンコリア開発副社長さんに「ネクソンのサブブランドを作るから、そこでやってみたらどうだ」という話をいただいたのがきっかけです。それからだいたい早期アクセス開始まで2年10ヵ月くらいかかりました。
――25人で2年なら十分速いペースに思えますね……。PC版の売れ行きはかなり好調ですが、その点に関してはどうお考えでしょう。
ファン 正直に言うと、ぜんぜん予測してなかったんです。好きな人は好きだろうと思ったんですけど、ここまで人気が出ることは全然予想できていなかったですね。自分で言うのもなんですが。
――ファンさんから見て人気が出た要因はなんだと思っていますか?
ファン コミュニティの管理でしょうか。毎日Discord(※)に入って、直接ユーザーさんと対話をしていましたね。
※Discord:PCやスマートフォンに対応した無料のコミュニケーションツール。ユーザーは興味のあるコンテンツや招待されたサーバーなどに参加し、サーバー内の人々と交流ができる。ボイスチャットはもちろん、ビデオ通話、画面共有、テキストチャットなども可能だ。
――毎日ですか! それはすごいですね。
ファン シングルプレイのゲームってアーリーアクセスをやらない場合が多いんですよ。でも、僕自身シングルプレイのゲームを作ってきた経験がなくて……うまく作れるかが心配だったんです。
だから一度プレイしてもらって、ユーザーさんの声を聞こうということになりました。それで最初のほうは、コンテンツを追加せずに、ユーザーさんの意見を聞きながらUIやシステムの改善をしていましたね。
――ファンさんは長い間オンラインゲームに携わっていましたよね。アーリーアクセス中に、オンラインゲームみたいに新しいコンテンツを増やさないと飽きられちゃうんじゃないか……みたいな恐怖感はなかったんですか?
ファン アーリーアクセスの捉え方によると思います。内部では「ゲームがつまらなくて飽きてやらない人はいても、不便でやらない人はなくそう」という目標がありました。新しいゲームって、UI(ユーザーインターフェイス)とかで理解できない部分があったりするじゃないですか。そういう部分を全部クリアして、それで後からコンテンツを付けていこうと。
同じような感じで、たとえば最近すごくブレイクした『バルダーズ・ゲート3 』では3年ぐらいアーリーアクセスをやっていたんですけど、ストーリーをチャプター1以外は出さなかったんですよ。キャラクターを増やしただけで、いろいろの利便性とかシステムを改善していました。
――最近のライブ運営型のオンラインゲームは、どうしてもつぎからつぎへ要素を追加していかないといけないイメージがあって。そうじゃないゲームがこれだけヒットしたっていうことは今後のゲーム開発、ゲーム運営のひとつの指標になるんじゃないかと思ったりします。
ファン そうですね。ゲームがよいかは別として、アーリーアクセス段階でやったことはそれなりに誇れる部分だと思います。ユーザーさんの話をすごく聞いて、いろいろ利便性を高くした。そのおかげもあってゲームの地盤がしっかり固まりましたね。だから、その上にコンテンツを置いても安定性があるんですよ。こういった形でやれたのは、よい判断でしたね。
――地盤が固まってから追加したコンテンツって、たとえばどんなものでしょう。
ファン 最近のアップデートでいうと、ロブスターを追加したりしましたね。あるユーザーの方から「なんでロブスターがないの?」というお話をもらったので。
たぶんアメリカのルイジアナ州とかに住んでいるユーザーさんだったと思うんですけど、自分が住んでいる地域のロブスターの写真とかをアップロードしてくださったんですよ。それを見て「ああ、こういうの入れたらおもしろいな」って思いまして。
――それで本当に追加するのはすごいですね……! ファンさんが本当にコミュニティの声を大切にしているのを感じます。
ファン ゲームのメインじゃない部分は、わりとユーザーさんの話を聞いていますね。キーマッピングとか、ボタンのオート連打機能とかも、実装するつもりはなかったんですが……かなり要望の声が大きかったので、がんばって実装しました。
Steam版を正式リリースする際に、Valveから、けっこうプロモーションをいただいたんですけど、そのメールでも「コミュニティ管理がすごく印象的だった」と言っていただきまして。
――そうですよね。開発もやりつつ、こんなにコミュニティと直接やり取りしている方はあまり聞きません。
ファン 実際そうですね。自分でやりながら僕もあまり見かけないと思っています(笑)。
ファン でも、自分が好きなゲームのディレクターが直接答えてくれるって、すごくうれしいじゃないですか。なのですごく大変ではあったんですが、極力コメントは返すようにしていますね。それができなくても、最低限“いいね!”みたいなリアクションを付けています。
海と魚ともうひとつ。辿り着いた答えが“寿司”だった
ファン 実は、もともと内部でテストプレイしたときって、寿司屋パートの評判はちょっとイマイチだったんですよ。
――えっ、そうなんですか?
ファン はい。それが理由で最初のトレーラームービーとかでは、寿司屋があまり出ない感じにしていたんです。ただ、早期アクセスを開始したら、ユーザーさんからは意外と寿司屋パートの人気があったんですよ。
なので、後から特定の食材だと売上が上がるパーティーイベントのようなものを実装して、寿司屋パートをアップデートしていきました。
――寿司屋にくるVIP客の実装も、そういった関係で決めたんでしょうか?
ファン それはもともとありましたね。寿司屋に来る特別なお客を通じて新しいコンテンツをアップグレードしたり、ストーリーを展開させたり、というのは最初からあった構想でした。大人たちが語らいあう『深夜食堂 』(※)みたいな、キャラクターたちが会話できる場所を作りたかったんです。
※深夜食堂:安倍夜郎氏によるマンガ作品。また同作を原作とした同名テレビドラマ。深夜食堂と呼ばれる店を舞台に、そこに集う人たちの腹と心を満たしていくお話。
VIP客のひとりであるヨシエ。VIP客をうまくもてなすと、特別な演出を見ることができる(画像はSteam版のもの)。
――そもそものお話になってしまうんですけど、ゲームの中に寿司を入れ込もうと思ったきっかけは何かあるんでしょうか?
ファン まず、海ってゲームにするのによい素材だと思うんですよ。でも、海をテーマとしたゲームってそんなにないですよね。『サブノーティカ 』(※)とか『ABZÛ 』(※)……そのあたりが代表的でしょうか。
そういったタイトルのように3Dの海を探索するのは少し難しいなと。なので、最初に目指したのは、もうちょっとカジュアルにした『サブノーティカ』だったんです。
海といえば魚、それも変なのがたくさんいる。そういった魚たちを獲るゲームを作ってみようって話から始まりました。ただ、それを獲ってどうするかがあまり成り立っていなかったんですよ。
たとえば深海魚を獲ってきて、そのまま売ってお金にして、そのお金で装備を強化する……みたいな流れだと、何かひとつ足りないなって感じだったんですね。
※『サブノーティカ』:不時着した未知の海洋惑星から脱出を試みながら、星の謎を解明する水中アドベンチャーゲーム。一人称視点でクラフト要素などが盛り込まれており、海の美しさから恐ろしさまで体感できる。開発は世界中にチームメンバーがいるUnknown Worldsが担当した。2018年発売。
※『ABZÛ』:美しい水中の世界を探検できるダイビングアドベンチャー。謎を解きながら魚たちとの触れ合いも楽しめるヒーリング系のタイトル。『風ノ旅人 』のクリエイターによる作品でもある。2016年発売。
――海を舞台に魚を獲る、までは決まったけど、つぎの一手が浮かばなかったんですね。
ファン はい。そのとき偶然、済州島(※)にある海辺の居酒屋に行ったんですね。で、そこのマスターさんは朝に海に潜って、獲った魚を夜に料理して売る、というスタイルだったんですよ。それを見て「あ、これなんかおもしろいな」って思ったんです。
そこからアイデアを発展させて、やはり魚だったら寿司だなと。魚を寿司にして、それを売ってお金にする形になりました。
※済州島:韓国最南端に位置する島。観光地としても有名。海産物も豊富である。
――リアル『デイヴ・ザ・ダイバー』なお店があったんですね。
ファン ですね(笑)。モンスターを倒して、そこから目玉とか羽とか取って、盾にする……みたいな感じだと、ちょっと海とのつながりがイマイチじゃないですか。でも魚を寿司にするのだったら、かなり直感的に理解できるんじゃないかと。
ゲームで海に潜って新しい魚を見るときに「美しいな」と思ってもらいつつ、「あれ取ったらいくらかな」と考えてくれるとよりおもしろいですよね。
――ほかにも何かインスピレーションを受けたものってあるんですか?
ファン 子どものころに遊んだ『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン 』(※2)の影響は大きいと思います。ダンジョンで稼いだゴールドによって、店や村が発展していくのがおもしろいなと。
後は『龍が如く 』シリーズ(※3)ですね。メインのルートがあって、そこに世界観を広げるミニゲームとシステムがきれいにくっついていくのがすごくうまいなと思って。桐生さんって、らしくないミニゲームもたくさんやるじゃないですか。そういったところからキャラクターへの愛着やゲームを広げられるのって印象的だったので、うちもやってみようと。
※2:1993年9月19日にチュンソフトより発売されたスーパーファミコン用ソフト。『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち 』に登場する武器商人トルネコを主人公に、ランダム生成されるダンジョンに挑んでいくタイトル。
※3:セガが展開する“大人向けエンタテインメント作品”をコンセプトにした作品群。巨大な歓楽街に生きる男たちの生きざまをドラマティックに描く。多くの作品で桐生一馬という男が主人公を務める。
――本作にたくさんあるミニゲームの源流が『龍が如く』とは……。でも、なんだか納得しました。
キャラクターがおじさんなのは、開発者たちもおじさんだから
――といったところで、ぜひそろそろSwitch版の話について聞かせていただければと。このたびSwitch版が発売になるということで、ファンさんから改めてこのゲームの魅力を語っていただけますか?
ファン ブルーホールという海を舞台にしているんですが、ここは『ONE PIECE 』のオールブルー(※4)みたいに、全世界の魚が集まるところになっています。
ここでいろんな魚を昼のあいだに獲って、夜にそれを寿司として提供する。海洋探索と店を運営というふたつの部分がおもしろいゲームになっています。海中の2Dと3Dがうまく交わったグラフィックも好評をいただいていますね。
こういったメインコンテンツだけじゃなく、ゲームの進行によっていろいろなミニゲームも解禁されていきます。そういった部分もユーザーの方々におもしろがっていただいているのかなと。キャラクターたちも、濃いキャラクターがいっぱい出てきます。
※4:尾田栄一郎氏によるマンガ『ONE PIECE』の作中にて語られている特殊な海域。各海域に生息するあらゆる魚が一堂に会するとされている。
本作のグラフィックは本当に魅力的。深海の怪しい雰囲気も抜群に感じられる。
――本作のキャラクターは、確かに魅力的で濃い人物ばかりです。中でもファンさんがとくにお気に入りのキャラクターとかはいらっしゃいますか?
ファン 僕は、サトーさんというキャラクターが好きなんですけど……じつは某ゲームをリスペクトしたうえでオマージュさせてもらっています。Switchで出すときに問題になるかなと思っていたんですけど、任天堂さんが大目に見てくれて幸いでした(笑)。
獲った魚が記録されるマリンカと、画面の左下で何かを考えこむサトーさん。ぶっちゃけ筆者は「このキャラクターだけ差し替えられるんじゃないか」と思っていた(※画像はSteam版のもの)。
――けっこうギリギリなラインですよね……。というか、本作のキャラクターはおじさんばっかりですけど、どうしてこうなったんでしょうか。おじさんとしては安心感がありますが(笑)。
ファン キャラクターは、外見よりもキャラクターが担当するコンテンツを先に作ってから、それに合う見た目を考えていきます。たとえばサトーさんだったら、マリンカという海洋生物のカードコレクターですよね。で、このカードまわりを担当するキャラクターを想定して「どういうキャラクターが出たら、いちばんおもしろくなるのか」を、つぎに議論するんですよ。
……で、ギリギリまで悩んでいちばんおもしろい形を選んでみたら、なぜか全部おじさんになっちゃったんですね。
――なるほど。きっと全部おじさんになっちゃうこともありますよね。キービジュアルも全部おじさんですけど、それも意図していなかったんですか?
ファン はい、まったく。なんなら内部でテストしたときに「なんで全部おじさんなの?」って話があって、そこでハッとしたんですよ。たしかに、言われてみたら全部おじさんだ……! って。
キャラクターは濃くて、強い個性を持っていてほしいというのが内部の方向性だったので……やはりその方向に進んだらおじさんになるんではないかなと。「なんで美少女がいないの?」とかはけっこう話題にあがりましたね。
冒頭にも出したが、改めてキービジュアルをご覧いただこう。そのおじさん率、なんと100%である。
――出てくる頻度が高い女性キャラも“ヨシエ”ですよね。よくゲームに登場する美少女という感じではないというか。
ファン やはり、チームに僕を含めておじさんが多いですから……。女性キャラを思いつくよりは、男性キャラで、年齢が似たようなキャラクターになっちゃうんですよね。
エリーという若い女性のキャラクターがいるんですけど、登場する期間が短いんです。なんだか、このキャラクターを生かす方法あまりわからなくて。後半にはあまり出ない、みたいな感じになっちゃいました。
おじさんだったら何をしゃべって、どの部分がおもしろいのかを熟知しているので、おじさんキャラクターの登場はすっごく長いんですけどね。
――おじさんを知り尽くしているからですね。
ファン おじさんのボリュームとしてはゲーム業界最高だとは思います。いろんな形のおじさんがいますので。『龍が如く』にも、その部分だけは負けていないと思います(笑)。
でも出てくる女の子はみんなかわいいんです。おじさんのほうが目立っているだけで……(画像はSteam版のもの)。
気になる本作のグラフィック。ドット絵の技術が磨かれていたのは、あのタイトルがあったから
――作中では尋常じゃないくらいに、高クオリティなドット絵が見られるじゃないですか。昨今、日本のゲームでもドットを打てる人が少なくなってきている、と言われている中で、ドット絵を入れようと思ったのはなぜなんでしょう。
ファン そもそもネクソン内部でドット絵を打ってきた方って、それなりに多いんですよ。2Dで(ドットで)描かれる作品では『メイプルストーリー 』もありますし、『アラド戦記 』もありますし。本作でアートリーダーをやっている方も『メイプルストーリー』にいた人ですね。
寿司職人であるバンチョ。本作における寿司屋、バンチョ寿司の板前である。
――あっ、そうか! なるほど。そのふたつに関わったことがある人が参加していたら、それはクオリティも上がりますよね。
ファン ただ、ドット絵のゲームって少しレトロな感じに見えると思ったんです。なので、カットシーンを入れてインパクトを出そうって話になりまして。実際に作ってみたらとてもクオリティの高いものがあがってきて、すごくおもしろかったんですよ。
でも、開発の最初のほうから僕が予想したよりハイクオリティなものを作ってしまったので、後の部分も最初のハイクオリティなものに合わせないといけなくなり……。そうなると同じ担当の人がずっとカットシーンばかりを描いています。内部ではカットシーンおじさんと呼んでいますね。
――カットシーンおじさんのおかげで、ドットのゲームながらもクラシックな感じがしない仕上がりになっているんですね。
ファン レトロゲームを目指したのではなく、ピクセルならではのキャラクター作りがしたかったんですよ。たとえばサトーさんが3Dのキャラクターだったら不気味の谷を感じてしまって、テイストというか、”味”みたいなものが出ないと思うんですよ。
でもピクセルというだけでかなり味が出ますので、キャラクター作りに大きく役立ったんじゃないかなと思います。
――確かに、3Dであのキャラを作ると……って思うと、やっぱりピクセルのほうがおじさんたちもポップな感じで、しっくりきますね。
ファン エイプリルフールのときに「3Dモードが来ますよ!」っていうウソをついたんですけど、そのときにデイヴの3Dモデルを作ったんです。それなりにおもしろいものにはなったんですけど、やはりデイヴがもつ“味”みたいなのはあまり出なかったですね。
VIP客のひとりであるヴィンセント・ヤマオカ。この表情の付け方も、ドットならではな味を感じられる。
Joy-Conでオタ芸ができる! Switch版ならではの要素
――Switch版が発売されるにあたって、PC版から変わった要素は何があるんでしょうか。
ファン Switchの体験版はちょっとロードが長かったんですが、製品版を出すにあたっていろいろと工夫したので、ロード時間は大きく短縮されています。ご安心ください。
そういった目に見えづらい部分以外だと、やはりSwitchといえばということで、Joy-Conを一部のミニゲームで使えるようにしています。たとえば料理のゲームとか、オタ芸のゲームとかが対応していますね。
――Joy-Conを使った遊びはSwitch独自の要素ですし、やはり実装するのは大変でしたか?
ファン キャリブレーション(動きの正確性)の調節には苦労しました。Joy-Conを使うのはおもしろいんですが、うまく自分の動きと連動してくれないとかなりストレスが溜まるんですよね。「なんでできないの!」って。
そのあたりはけっこうがんばって調節をしたので、製品版では大丈夫なんじゃないかと思います。
――本作は多彩なミニゲームも魅力のひとつですよね。没になったアイデアなども相当ありそうですが……ミニゲームの実装について、何か注意している点などはあるんでしょうか。
ファン いちばん気にしているのは“このミニゲームが出て自然かどうか”です。「こういうゲームだからいいでしょ」って考えでいろいろ入れちゃったら、ミニゲーム集みたいになっちゃうので。これはストーリー中に違和感なく入れられるかなど、どのキャラクターを主軸にして進めるかについては、けっこう議論しています。
もちろん、おもしろいけどゲームの流れとしてはちょっと不自然だなと思ったら、ボツにすることもあります。
ストーリー中に、適時挟まるミニゲーム。これは水中にある錆びついた扉を開くため、カッターで切るというもの。視界が水中メガネ型なのも細かい。
――もしよろしかったら、ボツになったゲームを聞かせていただいても?
ファン “フグにダーツを投げる”というのがあったんですが、フグ自体は寿司にする食材でもあるんです。そのためダーツにしてしまうと既存の世界観とちょっとぶつかるなというのがあり、これはボツになりました。
――なるほど、流れだけじゃなく世界観からも厳しくチェックを入れているんですね。あれ? でも、ダフがオタ芸をやるミニゲームってかなり唐突に刺し込まれた気がしますけど……。
ファン あー、それは……。完全にやりたかったから、ですね(笑)。チームに、実際に日本に行ってライブとか行ってオタ芸とかやっているダフに似た方がいるんですよ。その方が「オタ芸をミニゲームにしてみよう」って企画を出して作ったんです。
でも、そもそもこのゲームって、ダフは直接デイヴに会うことはないんですよ。だからダフが主役のこのミニゲームは、基本的なゲームの流れとしては不自然になっちゃうんですよね。コブラみたいに、実際にそこにいるキャラクターだったら大丈夫なんですけど……ダフをどうやって登場させるかは課題でした。
――でも、やりたかったと。
ファン はい、やりたかったので「これなら大丈夫だろう」というちょっと特殊な感じで実装しました(笑)。ちなみに先ほども言いましたが、このオタ芸のミニゲームは、Switch版ならJoy-Conを使ってプレイできます!
――そうか、Joy-Conだと実際に自分もオタ芸ができるんだ……! 開発陣の熱意で実装したミニゲームが、Switch版にきてハマるというのはおもしろいですね。
オタ芸はリズムゲーム。下のノーツにあわせて実際に手を上下させるようだ。
デイヴがこんどはアマゾン川に? まだまだ広がるファン氏の野望
――本作の今後の展開として何か考えているものはありますか?
ファン ゲーム自体は悪くない完成度でいろいろなコンテンツが仕上がったと思うんですけど、それ以外のサイドストーリーは時間的にあまり入れることができなかったんですよ。
バンチョはストーリー中に昔の話があるんですけど……たとえばデイヴはもともと何をやっていた人なのとか、ダフって何をやっていてこうなっちゃったのとか、そういう部分は全然語ってないので。
時間がもうちょっとあったらそういうキャラクターのサイドストーリーを作りたいなと思いますね。できれば、スピンオフのゲームまで出しちゃいたい。
――ダフのゲームいいですね。全部夢オチみたいなのとか……ダフが異世界転生する、みたいなものとかもできそうですね。
ファン うちのチームのダフっぽい方がすごく喜びそうですね(笑)。
ダフが主人公のゲームが来る……かも?(画像はSteam版のもの)
――今後もやっていきたいことがたくさんあるんですね。DLCのような、本編を拡張する形だとどうでしょうか。
ファン できるかできないかわかんないんですけど、新しい地域で本作のキャラクターを使ってみたいですね。たとえばアマゾン川とかにも、いろいろな魚がいるじゃないですか。そういうところで遊んでみたいですね。
――本作のフィールドは海なので、淡水魚は出せないですもんね。
ファン 淡水にしただけでも、けっこういいボリュームでコンテンツが出せそうですしね。鯰(ナマズ)とかおもしろそうです。
――ファンさん自身は、本作以外に作ってみたいゲームはあったりするんでしょうか。
ファン うーん、今回すごく苦労はしたんですけど、シングルプレイゲームを作るのはおもしろいなと思っているんですよね。現状のチームを小規模とすると、中規模ぐらい? 大規模はちょっと管理が難しいと思いますので、中規模ぐらいの大きさのチームで、もうちょっと楽しいことをやってみたいなとは思っています。
――『デイヴ・ザ・ダイバー』での発想がおもしろかったので、ファンさんのつぎの作品も皆さん楽しみにされていると思います! それでは最後に、Switch版から本作を手に取られるであろう方々に向けて、メッセージをお願いします。
ファン 意図したもの、というわけではないのですが……本作は携帯機で遊ぶのにすごくペースが合っている作品だと思います。実際正式版をリリースした直後の2023年7月は、その月にSteam Deckでもっともプレイされたゲームタイトルになりました。
そしてやはり、携帯機といったらSwitchですので、すごく本作とSwitchの相性はいいものになっていると思います。ぜひともSwitchで『デイヴ・ザ・ダイバー』を楽しんでいただければと思います。
――あ、すみません。最後にもうひとつだけ。
ファン はい? なんでしょう。
――好きな寿司ネタはなんですか?
ファン 個人的にはウナギですね。ゲームには出せなくて……悔しい思いをしました。
――ウナギ、おいしいですよね。本日はありがとうございました!
別れ際に、ゲーム内では海に沈んでいるあの箱をもらった。
中には素敵なグッズたちが。本当にありがとうございます。
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